2015年6月14日日曜日

PacBio User Group Meeting & Informatics Developer's Meeting

今年のPacBioアジア・ユーザーグループミーティングは、来月シンガポールで開催されます。
PAG ASIA学会の後に、同じホテルで行なわれる予定で、演者も決まりました!
PacBioブログはこちら

日本からは、セクシー&ワイルドワイルド&セクシーが正しい。訂正してお詫び致します!)の内藤健さんが発表の予定。
どんなテンションの、否、どんな楽しい内容の発表がされるのか、楽しみです。
直接のユーザではなくても、共同研究者、これから導入を検討している研究者なら誰でも、参加できますので、シンガポールまで・・・ちょっと遠いですね。

もうひとつ、8月の下旬にアメリカで予定されているのが、インフォマティクス系の開発者向けワークショップ。
こちらはプログラマーやアルゴリズムの開発者が一同に集まって、PacBioのデータ解析を論じ合うワークショップになる予定です。
日本からも東大の森下教授がスピーカーとして名を連ねています。


もちろん、海外まで行くのはちょっと・・・
という方のために、もしこれらが録画されることがあれば、その情報も追ってお知らせします。

さて、
日本でも、PacBio関連のイベント・発表がいくつか予定されています。

7月1日-3日、NGS現場の会 企業セッションとポスターと展示ブース
8月21日-24日 日本進化学会 ランチョンセミナー
9月以降はTBD
今年もPacBio現場の会、やるかも・・・

2015年6月9日火曜日

Swift スイちゃんはすごい

先月の国際ゲノム会議で、トミーデジタルの企業セミナーを聞いた方は、「あれっ? PacBioじゃないの?」って思ったでしょう。
もちろんその後のアカデミックセッションで、PacBioのCSO, Jonas Korlach氏の講演があったので安心したのではないでしょうか。

PacBioの話が続くのはアレなんで、うちのセミナーは別の製品、それもショートリード用のライブラリ作製キット、という驚きのセミナー!

「でもそんな、今更ライブラリ作製キットなんて、売れるの? 競合たくさんあるじゃん」
と思った方、そのとおり。 競合だらけです。
でも、この製品はきっとニーズがあるだろう、と思うのはそのスタート量の少なさ。

Swift Biosciences社、(スイフト・バイオサイエンシズと発音)、愛称は「スイちゃん」
このキットは4つあり、どれも少量DNAからスタートしてライブラリを作製できるところが特徴です。

少量DNAといってもどれくらいの量からスタートできるのか?
キットの種類、PCRの有無でも異なりますが、例えば2本鎖DNAスタートなら、PCR有りで10pgから、PCR無しで10ngからライブラリを作ることができる!

そんな少量からライブラリを作りたいというニーズはあるのか?

例えばcfDNA (セルフリーDNA)。 血中に漂うDNAを回収してシークエンスしたいというニーズはあるそうです。
リキッドバイオプシーとも呼ばれます。
厳密には、対象疾患によってその用語の使い分けがされているそうですがここではどちらも、cfDNAと呼ぶことにします。

そういうcfDNA、微量DNAからのショートリード用ライブラリ作製には、スイちゃんが向いています。

先ずは2本鎖DNAから


これはライブラリ作製の段階で、5’側にアダプターを付ける反応と、3’側にアダプターを付ける反応を別々に行なっています。
どうやってそんなことができるのか? 残念ながらそれはまだ企業秘密です。
反応ごとの回収率が非常に高く(>90%)、そのため少量DNAからスタートしても、シークエンスに必要な十分量なライブラリができるのです。


続いて、1本鎖DNAからのライブラリ調製キット


1本鎖、と銘打っていますが、損傷が多い2本鎖でも応用できます。
最初にDenatureのステップがあり、全て1本鎖にしますので。

まず、3’側にアダプターを付け、相補鎖を伸ばします。
反対側にもアダプターをつけて、PCR増幅して完成。
DNAインプット量は、PCRありだと10pgからスタートできるそうです。


続いてメチレーション用キット



BiSulfiteしてから、ライブラリをつくります。
損傷してニックが入ったDNAは、それぞれ分けて、ライブラリをつくります。
なので、先にライブラリを作ってからBisulする方法に比べて、DNAを無駄にすることが無い。
インプットDNAの最低量はなんと100pgから!


どれもこれも、本当?という数字ですよね。
実は私も???
アメリカの本社が出している数字ですし、それなりにデータもあるようなので、一応信じています。
販売されて間もないので、アメリカでもケーススタディのようなものはまだありません。
まさに、今なら、アメリカのユーザとタイムラグほとんど無しで、使用できる!!

私はこれが一番のメリットだと思うんです。
研究者にとってはある程度リスクだと思いますが、最新のテクノロジーはまず試してみて、良かったら使い続ける。
既にゲノム会議でも多くの興味を頂いているので、そのうち日本で、これが本当に「使える」のかどうか、わかる日も近いです。

「スイちゃん使える!」とわかったら一気に広まりそう、というのは甘いかな?
既に広く使われている、カッパくんがいるからねえ。
手間は多分、スイちゃんの方が簡単。
あとは、少量DNAからスタートして作られた、ライブラリのクオリティとシークエンスの結果。 
ここで、「カッパくんよりスイちゃんのほうがすごい。コスパも良い」ということになれば・・・


これ、PacBioのライブラリにも使える?
という質問には、「うーん、まだちょっと難しいかな。でも不可能ではないし、目的によっては、応用できるかも」とお答えしましょう。
今のところ、Illuminaシークエンサー、1本鎖用はIllumina&Ion Torrentシークエンサー用に作られています。


試薬なので、詳しくはこちらのページまで





2015年6月7日日曜日

Single Cell Sequencing と Single Molecule Sequencing - シングルセルと一分子 (2) 


G&T-Seq

G&T-seq って何だ?
Nature Methodにのるくらいだから、何か新しいすごい方法かな?と思って読んだら何と、" Genome & Transcriptome " シークエンスとのこと。

えっ?

でもこの論文、シングルセルから、ゲノムDNAとmRNA(完全長)を同時に分けて抽出し、シークエンスできるというところがすごい、らしい。

Macaulay et al. (2015) Nature Method

先ず、シングルセルは、フローサイトかマニュアルで分離した後、溶解。
そしてビオチン化されたSMARTer&オリゴdTプライマーと混ぜる。
オリゴdTは細胞内のmRNAのPoly-Aと結合するから、これでmRNAを釣ることができる。
このプライマー、ビオチン側にはストレプトアビジンでマグビーズが結合されているので、後で磁気で吸着させて他と分けることができるというわけ。

そしてPoly-A付きのmRNAと、ゲノムDNAを分けたら、mRNAは完全長を増幅。
ゲノムDNAは、全ゲノム増幅(Whole Genome Amplification: WGA)したそうです。
WGAは2種類、Multiple Displacement Amplification (MDA)と、PicoPLEX (Rubicon Genomics社のWGA)を使用した。

WGAの良し悪しは、色々議論があると思いますが、PicoPLEXで増やした方のゲノムはコピー数解析に用いられていました。
一方MDAの方はHiSeq Xシステムでがっつり全ゲノムリシークエンス、& SureSelect でターゲットを決めた後HiSeq 2500ラン。

転写産物の方は、ビーズで回収してきた後、直ちに逆転写酵素SuperScript IIでcDNAにし、KAPA HiFi Hotstart ReadyMixでシークエンスに必要な量まで増幅しています。
完全長を保ちつつ均一にcDNAを増幅できれば、PacBioシークエンスもできるわけです。

本論分では、1セルあたり2 SMRT Cell を使用してPacBioシークエンス(x 4セル)、当然Iso-Seq、しています。
2 SMRT Cellという数字から、恐らくサイズセレクションはしていません。
Iso-Seqでコンセンサスを出すまではSMRT Analysisで行い、その後ゲノムにマッピングする際はBLATを使っていました。BLASRではなく。

Nature Methodなので、メソッドに注目を置く論文ですから、サイエンス上の発見ということはあまり書かれていません。
シングルセルで、ゲノム変異とmRNA、特にアイソフォームを見ることもこれで可能になったということがすごいですね。

Single Cell Iso-Seq というのがいよいよ現実になった !!


2015年6月2日火曜日

Single Cell Sequencing と Single Molecule Sequencing - シングルセルと一分子

今年の5月は暑い!6月も暑い!何でこんなに暑いのか。
巷ではクールビズならぬ、スーパークールビズ、というものがあるそうで、何でも「暑い夏は、アロハシャツやポロシャツで仕事しましょう!」という試みらしいです。
「なーんだ、いつもやっていることじゃん」って思ったあなた、時代を先取りしてますね。

でもビジネスマンとして、客先にアロハで行ったらきっとびっくりされる。
日本で根付くにはまだまだ10年くらいかかるでしょうか。
ビジネスアロハ、とか普及すれば良いのに。
ハワイではオフィシャル用のアロハ、沖縄でもフォーマル用のかりゆし、というのがちゃんとあるように。


さて、今日はシングルセルのはなし。

Single Cellというのは文字通り1細胞
Single MoleculeというのはPacBioのシークエンス原理でもある、1分子

この2つ、文字が似ているせいか、混乱される方が非常に多い。
1分子というのはここではDNAを増幅せずに1分子をそのまま読むということで、Single Molecule シークエンスという使われ方をします。

Single Cell シークエンスというと、1つの細胞からDNAまたはRNAを抽出し、その1つの細胞内にあるゲノムや、1つの細胞内で発現している遺伝子をシークエンスするという意味です。
がんのように、細胞ごとに異なるゲノム変異を持っているような環境を研究対象にしたい場合、シングルセルで読むことは非常に意味があります。


Human Immunoglobulin (IgH)のスプライスアイソフォームをシングルセルレベルで明らかにした
論文です。
タイトルだけを読むと、PacBioのIso-Seqを、シングルセルでやったのか?と思ってしまうかもしれません。
でも中身を読むとそうではありませんでした。
Vollmers et al. 2014
シングルセルで読んだのは上の方
Single B-Cell RNA-Seqは、フリューダイムのC1システム&Nextera XT transposaseでイルミナ用のライブラリを作り、MiSeqとHiSeqを使って行なっている。
一方PacBioシークエンスは、B-Cell RNAサンプルをバルクで集めて行なっている。シングルセルではありませんでした。
バルクとはいえ、B-Cellにて発現しているIGH遺伝子のアイソフォームをPacBioのロングリードで一気にシークエンスする。
その結果、新規のアイソフォーム(Alternative Transcript)が複数見つかった。
これら新規アイソフォームは、SangerシークエンスでもValidationされて、確かに存在することが確かめられた。

で、既知・新規含めたIGHアイソフォーム配列が求められた上で、C1使用してシングルセルで読んだショートリードRNA-Seqデータを、それらと比較する。
どのセルでどんなアイソフォームが発現していたのか、わかるわけです。

なーるほど。

最初からPacBioだけで全てをやろうとしないで、ショートリードとの見事なコラボレーション!
シングルセルのアプリケーションとして、参考になりますね。