2014年4月29日火曜日

クオラムセンシング

最近、ビールを少し飲むと、頭が冴えるようになってきました。
ドラフトビール、それもなぜかオリオンビール、限定です。 何ででしょうね。
プレミアムモルツのような高級ビールは酔いが回るのが早い気がする。これはプラセボ効果でしょう。
バーで飲むなら、お勧めはベルギービール。ワインみたいな味のものもあります。ちょっと高いけど種類は豊富で奥が深い!
ベルギービールがなければ、飲みやすいKilkennyか、癖のあるGuinnessのどちらかその日の気分で。
しかーし、仕事するならやっぱりオリオンビール!
というわけで、今度こっそり会社の冷蔵庫に入れておこうか。


さて、今日の話はビールとはぜんぜん関係ありません。
クオラムセンシング (Quorum Sensing : QS)、という言葉をご存知ですか?
バクテリアを研究しているかたには常識なのかもしれませんが、私は知りませんでした。

Wikipedia にはこのように説明されています。
「クオラムセンシング(英語: quorum sensing)とは、一部の真正細菌に見られる、自分と同種の菌の生息密度を感知して、それに応じて物質の産生をコントロールする機構のこと。quorumとは議会における定足数(議決に必要な定数)のことを指し、細菌の数が一定数を超えたときにはじめて特定の物質が産生されることを、案件が議決されることに喩えて名付けられた。クオラムセンシングを行う代表的な細菌には、発光バクテリアの一種であるVibrio fischeriや、日和見感染の原因となる緑膿菌が挙げられる。」

つまり、ある環境下で、自分たちがあまり増えすぎた場合、その数を一定に保つために、シグナルを出し合って数を調整するようなシステムなんだそうです。

人口が増えすぎると食糧が足りなくなって、今度は自分たちの個体数が減る、というのは環境学の教科書で学んだ気がします。
どこかの島の、狼とヤギの個体数の変化、だったような、違ったような・・・。

ミクロの世界ではお互いに個体数を調整しながら、集団の数を維持している、としたら、我々よりも賢いのかもしれませんね。

そんなクオラムセンシングを持つバクテリアが、Cystic Fibrosisの患者さんに、感染が見られるそうです。 
その中の、Pandoraea sp. は、多剤耐性で致死性の高い病原体ですが、病毒性についてはほとんどわかっていないそうです。

University of Malaya (マレーシア)の、Robson Eeらは、PacBio RSIIを使い、Pandoraea sp. Strain RB-44のゲノムをCompleteし、発表しました。



デノボアセンブリは、HGAPを使っています。
これで、病原性・毒性のメカニズムが少し解明されることが期待されます。

マレーシアのチームも、なかなかやりますね。 Good Job !

彼らも、今度のAsia User Group Meetingで発表すると思いますので、楽しみです。


それにしても、バクテリアレベルでもコミュニケーションを取っているなんて、驚きですよ。
昆虫のフェロモンみたいなものですかね。



さて、オリオンビールが空になりました。
もう一本といきたいところですが、今夜のところは我慢。


2014年4月21日月曜日

少量DNAスタートのプロトコル

先週、東京にて、PacBioのユーザ様を対象にした、ウェット・ドライ両方の2日間トレーニングが開催されました。
PacBio本社からは2名のトレーナー、PacBio Asiaオフィスからも2名、マレーシアユーザも2名参加し、全体としては20名を超え、内容の濃いトレーニングができたと思います。
皆さん、それなりに満足されたのではないでしょうか。

そこで取り扱ったテーマは、Iso-Seq(cDNAアイソフォームシークエンス)、Large Genome Assemblyの2つ。
ミニテーマとして、サイズセレクションに使うBlue Pippinのアップデート、少量DNAからのシークエンス、分解ゲノムDNAのシークエンス、の3つがありました。


そこで、本日は、少量DNAからのシークエンスについて少し紹介しようと思います。
これは、Pac公式のプロトコルではなく、シェアードプロトコル(R&D部門やカスタマーが考えて、みんなとシェアしているプロトコル。頻繁に更新される)です。

普通のプロトコルでは、PacBioのSMRT bellライブラリシークエンスには、数マイクログラムオーダーのDNAが必要です。

ゲノムDNAのShearing後に、DNAが約5 ug得られたとして、そこからSMRT bellライブラリを作製すると、一般的な回収率は約20%なので、ライブラリは1 ugできます。
不純物が混ざっている場合などは、MoBio精製をしますので、実際には1ugを切ることは多いでしょう。
なんでこんなに回収率が悪いのかというと、Exo ヌクレアーゼ処理をしてNickの入ったDNAを分解したり、AMPureビーズ精製を繰り返したり、アダプターライゲーションをしたりするためです。
その各ステップごとに、DNAは失われます。

さて、20Kb のロングライブラリを作ってシークエンスしたい場合、Blue Pippinでサイズセレクションがほぼ必須なのですが、これに必要なDNA量は、500ngです。これ以上DNAが無い場合はサイズセレクションができません。

もちろん、サイズセレクションしなくても、シークエンスそのものは可能です。でもその場合、かなり短いライブラリが多く含まれてしまいます。

さて、サイズセレクションした場合、ロスする割合は、カットオフ値とサンプルによりばらつき(経験上50~80%)があります。
Blue Pippinの回収率を仮に20%をすると、200 ngです。

でも、この後またAMPure精製を行うので、これで流せるSMRT Cellの数は、およそ10です。
何十セルも流すようなプロジェクトには、相当多くのDNAが最初に必要だということがお分かりになるでしょう。

しかし、多くのデノボプロジェクトの場合、マイクログラムもDNAが取れないことが多い!
数十ng しか取れない、なんていう生物もいると思います。

そんなときのシークエンスプロトコルがこれ、Carrier Plasmidを使ったライブラリ調整法です。

環状のpUCやpBRプラズミドを、SMRT bell作製の最終段階で加えるのです。

環状プラズミドをまず、Exoヌクレアーゼ処理し、Nickのあるプラズミドを分解します。
少量ゲノムDNAは、普通のプロトコルと同じようにライブラリ作製を進めます。そのかわり、量を節約するため、途中でサイズを測ったりはしません。

アダプターが付けられた微量のSMRT bellに、環状なプラズミドを500ng加えます。
そして、SMRT bellとプラズミドを一緒にしたまま、最後のExoヌクレアーゼ処理をします。

その後、AMPure精製、プライマーアニーリング、ポリメラーゼ結合、に進みます。
もちろんその際のプライマー、ポリメラーゼの量は、微量SMRTbellの推定量に合わせます。

そして、シークエンスに移ります。
シークエンスは、SMRT bellと、環状プラズミドの両方が混ざったまま行われるのですが、環状プラズミドには当然アダプターがないのでプライマーもアニーリングせず、結果ポリメラーゼが結合していないので、ZMWの底には固定されない。
SMRTbellだけがZMWの底に固定され、シークエンスされることになります。

これがキャリアープラズミドを使った少量DNAスタートプロトコル。 

公開されているプロトコルは、2kbから10kbのサイズのライブラリ用で、Blue Pippinサイズセレクションもしません。

しかし、20kbライブラリを作ってBlue Pippinを流すときも、プラズミドを加えて全体の分子数を上げることで、サイズセレクションも原理的には可能です。

このプロトコルはまだまだ改良の余地ありで、完全なものではありません。
私たちのところでも、一度、20kbライブラリのランで、このプロトコルを試しました。
データについては、悪くは無い、というか、一昔前のRSのスループットと変わらない感じでした。
詳しくは、5月16日(金)の、「PacBio現場の会」セミナーで、紹介しようと思います。

このセミナーですが、先週レジストレーションを開始しました。
ここから

定員100名なので、参加登録はお早めに!



2014年4月9日水曜日

海外の学会

先週の週末からサンディエゴに来ています。
AACR: American Association of Cancer Research - アメリカのがん学会です。
とても大きな学会で、ASHG - American Society of Human Geneticsの倍以上あるでしょうね。
会場がまた、だだっ広い。
メイン会場は、2000人は余裕で入れる部屋です。

がんの分野はもう、Whole ExomeとかWhole Genomeとか、シークエンスで大規模に読むのが普通なのかな、と期待していたのですが、「意外と」まだまだやっているひとは、割合的には少ないように感じました。
Whole Genomeシークエンスはあまり好きではない、とはっきり言っている方もいましたし。
でも、確実に、研究分野では、大規模シークエンスでMutationを見つけていく方向に進んでいるように思います。
そんな中、PacBioを使ったらもっと良いのになあ、という研究もありました。

アイソフォームの種類の検出です。 Exon-Intronの認識ジャンクションにポイントミューテーションが入り、結果としてIntronが抜かれない、というようなタイプ。
Exonの配列の中で、これまた変異が入り、Intronとして間違って認識されて、抜かれてしまうタイプ。
そんなのも見つかったそうです。
発表者が偶然、私と同じ大学(カナダの某University)出身だったので話が弾みました。

あと注目したのが、Foundation Medicine (http://www.foundationmedicine.com/)
名前は聞いたことがありましたが実際に彼らと話をしたのは初めてでした。
がんの研究をやっているひとなら、耳にしたことがあるのではないでしょうか?
ケンブリッジに本拠地を置く、診断向けのパーソナルシークエンスサービス企業です。
NASDAQにも上場しています。ビル・ゲイツも投資しています。

ビジネスとしては、クリニックからサンプルを受け取って、自分たちで開発したDNAプローブを使って、ターゲットをキャプチャーし、HiSeqでリシークエンスした後、独自のソフトウェアで、Cancer Panelの遺伝子を検査し、バリデーションを含めて返す、というものです。
FFPEサンプルからゲノムDNAを抽出し、がんサンプルが全体の20%未満のサンプルは検査しないという基準を設けているそうです。
彼らのメソッドは Frampton et al., Nature Biotechnology Nov 2013 に発表していますので、興味のある方は参照ください。
本格的な診断目的のシークエンスサービスで成功している企業です。
日本からもこういうベンチャーが出て欲しいですね。

さて、そこで話した彼が、なんと数年前までPacBioにいたことが判明!
あいつ知ってる?こいつまだいる? みたいな話で盛り上がりました。


狭い世界ですね。


狭いと言えば、百以上の企業が出展している展示会では、いくつかのブースで、知ってる顔が。
「あれ? 転職した?」
「そうなんだよ、元気?」
といった具合で、企業を渡り歩いている人たちに会えるのも、また楽しいものです。
彼らも実力・実績があるから、渡り歩けるんだなあ、と感じています。

もうひとつ、私が前いた会社で、付き合いのあったアメリカのソフト開発企業があります。そこのアジア担当が元PacBioの人間かつ私の知り合い。
そして彼は転職して今、別の某ナノテク機器の会社の人間。 そのナノテク会社の何人かは、昨年シンガポールのバーで偶然知り合ったひと。

本当に狭い世界です。 偶然とは思えないほど。


もうひとつ、これは名前出して良いと思うのですが、私が前の会社で担当していた、デンマークのCLC-Bioという会社のソフトウェアがあります。
Genomics Workbench です。 この会社は昨年、Qiagen社に買収されました。
また、今の会社で、長年扱っているIngenuityというアメリカの会社のソフトウェアがあります。
この会社もまた、昨年、Qiagen社に買収されました。
一昨年前にASHGの学会で知り合いになった、Maverixという会社、も、今月Qiagen社と提携を組みました。
私が好きな会社が次々にQiagenに組み込まれていくのは偶然でしょうか?
ま、どちらとも仲良くなればそれでよりいっそうネットワークが広がっていく、と考えることにします。
向かって右がIngenuityのVP:ジェイソン, 左がCLCの部長:ミケル(肩書きはすぐ変わるので間違ってたらすみません)
ちなみに私の持っているビールはIPA: Ingenuity Pathway Analysis

知らない方のために説明すると、IPAは本当はサンディエゴの地ビールで、India Pale Aleの略です。 Ingenuityの目玉ソフトウェアの名前もIPA:こちらはIngenuity Pathway Analysisの略です。
IngenuityのパーティなんだからIPAでしょ。

明日は最終日です。
ちゃんと仕事はしています。




2014年4月2日水曜日

エイプリルフールジョーク

エイプリルフールのジョークです!
McGillのKenさん
某メーカーの製品を茶化しているところがあります。 あえて私はノーコメント・・・ : )
ビデオのリンクはこちら
カナダ人らしい、のんびりとした話し方がまたいい!


ジョークのもうひとつは、ツイッターの画像から
RS2-D2!!!
こんなペイントがあったら、いいと思いませんか?


2014年4月1日火曜日

PacBio現場の会

今日から新年度ですね。
上野公園は桜も満開、花粉も飛んでいますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

「3月上旬からブログ更新してないね」と、同僚から催促されましたので、4月から頻繁に更新します。
3月は忙しい年度末だったので、いろいろと暇が取れなかったのですよ。

さて、ご存知の方もいると思いますが今年は、NGS現場の会の大会はありません。
しかし、普段から、PacBioの情報提供の必要さを強く感じていますので、今年は、PacBio誰でも参加OKセミナーを開催することにしました。
通称、「PacBio現場の会!」

現場の会、という名前にふさわしく、誰でも(もちろん某ショートリードメーカーさんでも)参加OKです。 競合他社はご遠慮させて頂きます、なんて、小さいことは言いません!

詳細は、NGS現場の会のメーリングリスト、に流しますが、現時点で決まっていることをお知らせします。
とり急ぎ、5月16日(金)を、皆さん、カレンダーでチェックしましょう!!
前日くらいに東京に来る予定があるかた、ぜひ、寄ってみてはいかがでしょうか。
参加方法は、決まり次第、まもなくメーリングリストでお知らせします。

【PacBio現場の会】
日時: 5月16日(金) 時間は後ほど
場所: 秋葉原UDX Next1Room
参加人数: およそ100名+

現時点で決定している演者の方は以下のとおりです。
皆さん、ご協力本当にありがとうございます!

(演者の方のお名前・50音順)
笠原 雅弘さま (東京大学)
鎌田 真由美さま(慶応義塾大学)
鈴木 智さま (日本ジェネティクス株式会社)
谷沢 靖洋さま (国立遺伝学研究所)
中野 和真さま (沖縄綜合科学研究所)
中村 昇太さま (大阪大学・微生物病研究所)
宮本 真理さま (キアゲン・株式会社CLCバイオジャパン)
湯原 悟志さま (タカラバイオ株式会社)
Robert Sebraさま (Mount Sinai Hospital)
演者未定  (Strand Life Sciences)
演者未定

バクテリア、真核生物、ウェット、ドライ、アカデミック、企業 ・・・

私も、PacBioのアプリケーションについて比較的新しいものを紹介する予定です。
今は弊社ラボで検証中。

また、いかにも企業セミナー、っぽくならないように、「現場の会」の雰囲気を醸し出すように頑張ります。