2014年9月4日木曜日

シングルセルWhole Genome Amplification シークエンス

先日も少し紹介しました「De Novoの達人」論文が、GenomeWebで紹介されました!
InComparison of De Novo Assembly of Bacterial Genomes, PacBio System Comes Out OnTop
パチパチパチ!
「De Novoの達人」と言えば、Vibrio parahaemolyticus のゲノムを、PacBio RS, Illumina MiSeq,  Ion Torrent PGM, Roche 454 GS Junior で読んで、そのアセンブル結果を比較した、昨年の「NGS現場の会 in 神戸大会」の企画ですよね。
その結果、PacBioが一番良かった。
ダントツに良かった。

バクテリアゲノムアセンブリには、PacBioが最も良い。 
rRNA遺伝子オペロンは5~7kb、これがゲノムに何箇所もあるとしましょう。
どんなにペアエンドでカバレッジ稼いで読んでも、ショートリードではつながらない。
PacBioの超ロングリード(P5C3試薬は平均8500bp)であれば問題ない!

目的によりますが、PacBioはすごいんです。

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さて、話は変わってシングルセルの話題。
最近熱いですよね。

シングルセルからのゲノムまたはmRNAを、NGSを使って読む、という技術。
今日はゲノムに絞ります。

ゲノム全体を増幅する技術のことを、Whole Genome Amplification (略してWGA)と呼びます。
なぜこんなことをするのかというと、単離したがん細胞や、培養が難しいバクテリアのような、一細胞のゲノムを読みたい、というニーズがあるから。
がん細胞は、一細胞でのゲノムがユニークです。正常細胞との混ざりものゲノム解析は、出来れば避けたい。
難培養バクテリアの場合も、NGSに必要なゲノム量を確保するのが困難です。

シングルセルを取ってくる技術として、例えばがん細胞、特に末梢血中のがん細胞 CTC(Circulating Tumor Cell)、を採取する機器があります。(例えばMMI CellEctor Plusとか)
難培養菌の場合はもっと、機械に頼らないマニュアル的な採取方法があると思います。(機械があったらごめんなさい)

というわけで、一細胞を取ってくるまでは、何とかできる。
次にWGAでゲノムを増やします。

これは、MDA(Multiple Displacement Amplificationの略)という方法で増やします。 
NDAではありません。こっちはNon-disclosure agreement、秘密保持契約。 余談ですが、最初聞き間違えて、全く話がチンプンカンプンになったことがあります。皆さん、初めて知らない略語に触れたら、恥ずかしがらずに聞きましょう!

MDAは、Phi 29ポリメラーゼを使って、DNA二本鎖をはがしながら増幅していく、PCRに頼らない増幅方法です。 
これは色んなウェブにわかりやすい説明が載っているのでわからないひとはググろう!

キットとして販売されているものでは例えばキアゲン社のREPLI-g Single Cell Kit があります。

このカタログには、

  1. シングルセルからの最大のゲノムカバレッジでの全ゲノム増幅
  2. MDAテクノロジーによりゲノム遺伝子座の偏りの無い増幅
  3. 次世代シークエンシングのような新テクノロジーでの使用に最適
  4. 最大40μgまでの一定した収量(増幅産物長さの平均は>10kb)
とありまして、特に4番目の項目がPacBioには魅力的です。


とは言っても、一般的にMDAには問題もあるようです。

バクテリアのシングルセルからのWGAアプリケーションの述べたレビューがあります。

Lasken et al.,
Nature Reviews Genetics 15, 577?584 (2014) doi:10.1038/nrg3785

Lasken et al.
この論文によると、WGAによって、シングルセルからリファレンスゲノムが得られた難培養バクテリアは、Atribacteria (OP9)、Hydrogenedentes (NKB19) などがあるそうです。
Graig Venter博士らのグループは昨年、TM6という新規門に属する難培養バクテリアを病院の流しから採取、WGAでゲノム決定しています。
MacLean et al., June 25, 2013 vol. 110 no. 26

このような成功例はあるものの、一般的に、WGAによるアセンブリはかなりフラグメント化されてしまうそうです。
理由は、増幅バイアスです。
ちょっとの増幅のされやすさ、されにくさが、指数関数的にリードの差を生んでしまいます。
何しろ1セルのゲノムが最終的に10億倍にも増えるんです。
カバレッジが均一でないサンプルを読むわけですから、アセンブリも難しいのでしょう。

また、コンタミを防ぐためクリーンルームが必要というのも注意点です。
コンタミしたPlasmidを一生懸命増幅して読んでいた、なんてことになりかねませんから。

とは言うものの、もし、目的のゲノム配列だけが安定して増幅できれば、WGAは素晴らしい技術でしょう。
この世界は予想がつきませんから、どこかで開発が進んでいるかも。



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