2014年9月8日月曜日

情報公開はEarly Accessでも必要か Oxford Nanopore

池上彰さんが、朝日新聞の連載に、朝日を批判する意見を書いたら、掲載を断られたそうです。
で、池上さんが、「長年の信頼関係が崩れた」と、連載の中止を発表。 
そしたら一転、朝日新聞側は謝罪、掲載されるようになったと。
でも後を引いているようですね。

報道の自由、表現の自由、というのは、サイエンスの場でもあると思います。
それは企業であっても、一度、オープンにして良い、という条件を提示したら、協力者がどんなことを発表しても受け入れなければいけない。 それくらいの覚悟を持たないかぎり、やってはいけないんです。



昨年の終わり、Oxford Nanopore Technologies (ONT)社が、Early Access Programを開始しました。
ここの説明が詳しいです。
いくつかの候補サイトに、MinIONを送付、指定のLambdaサンプルと、ユーザの好きなサンプル、の2つをMinIONを使って読むことができる、プログラムを開始しました。

データの開示にはいろいろ条件・契約があるみたいですが、先日論文がなんと日本から出ました。


びっくりしました。 沖縄・ぜんぜんノーマークでしたよ。
著者はOISTのAlexander S. Mikheyev博士
Lambdaのリシークエンスと、ヘビのcDNAアンプリコン(彼らのサンプル)を読んだそうです。

で、内容を読んでもっとびっくり。
かなり詳細に、プロトコルからデータ、解析結果まで書かれているんです。
それもかなりONTに不利な内容。

もちろん、「これは初期のONTデータなので、将来改善されると思う」とは断っています。
Lambdaのリシークエンスのデータは、サンプル調整に半日、シークエンスに36時間かけて出来た150Mbの生データは平均リード長5Kb
ここまでは良い。

でもリファレンスにアラインしたら、10%のリードが、相同性2.2%と8.9%でマップされた・・・って。
(2つあるのは読み方の違い。同じDNAを1回しか読まないか、2回(+鎖と-鎖)読むかの違い)
でも、精度と呼べるレベルかはわからないけど、10%の相同性って、どう評価してよいものか。

cDNAアンプリコンのほうはもっとひどい。
24時間のシークエンスで1,429本(1回の読み方)と、16本(2回の読み方)のリードが出力
たったそれだけ?
1429本のリードのうち、BLASRでアラインしたのは10本、BLASTNでアラインしたのは21本

もちろん、彼らのマッピング方法が最適ではない、という指摘もあるでしょう。
Nanopore用の解析ツールを使っているのかどうかも不明です。
例えばこれ poretools

ONTのデータは、フォーマットが特殊で、fast5というバイナリで出てきます。
これをFASTAやFASTQに変換する。
FASTQファイルも、中身が空っぽのファイルが結構ありますし、まだ扱いにくいし情報も少ない。


彼らのデータは、とても現実のシークエンス解析に使えるほどの質を持っていないことが明らかになりました。
実は、噂で、別のユーザが似たようなデータを出していると聞いていました。
そのデータと、今回の論文のデータが、出力、マップ精度共に非常に似ているのに驚きました。


というと結構アンチONTになってしまうので、バランスを取るため、「いや、そんなにナノポア悪くないよ」という例をひとつ

これは私が実際、6月に聞いてきた、Histogeneticsという会社の発表です。
彼らが読んだサンプルは、LambdaとHLAアンプリコン
Lambdaの話はしていませんでしたが、HLAアンプリコンのほうは、実際のデータをひとつ出していました。
平均リード長5kb、そのうち何本がマップされたとは言っていませんでしたが、マップされたリードのマッピング精度は50%、そしてInDelエラーがかなり多かった。
「この段階ではまだとても解析には使えない。ロングリードが必要ならPacBio使え」 と言っていましたが、10%の相同性というほどひどくは無かったようです。

どうなんでしょうねえ。 実際のところ、エラーはかなり多いみたいですが。
今後も色んなところでデーがぼちぼち公開されるでしょう。


で、最初の話に戻りますが、サイエンスはオープンであるべきだと思います。
企業が、科学者に評価を頼むとき、いろいろ条件はつけるでしょうが、基本はその科学者の自由に任せて発表してもらうのが筋でしょう。

しかし、ONT本社は、彼らの評判を下げるようなデータを公表した(実際データはここから取得できる)、OISTのMikheyev博士を、MAP(MinION Access Program)から脱退させたとのことです。

くわしくはこちら

We therefore can only conclude that your objectives and outlook are fundamentally misaligned with those of the MAP programme and the other participants.

つまり、俺たちの都合の悪い発表はしてくれるな、ということなんでしょうか?
だったら、もっと先に人を選べばいいのに。

これは揉めるだろうなあ

Twitterでも炎上、まではいかないけれど、賛否両論あると思いますよ。


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