2015年3月18日水曜日

Venter博士の野望


前のブログで、AGBTのPacBioワークショップのビデオリンクを紹介しましたが、皆さん、見ましたか?
いやー時間が無くて見てないよ、という方は、とりあえずVenter博士のトークを見てみましょう。

Venterさんといえば、皆さんご存知、ヒトゲノムプロジェクトに企業として挑戦した、あのセレラジェノミクスの社長ですね。
実は、私は8年ほど前、セレラジェノミクスの会社の前を、車で偶然通りかかったことがあるのです。
そのころ彼らは何をしていたかというと、海に沈んだ古い沈没船を引き上げて、その船についていた泥から、微生物を採取し、そのバクテリアのゲノムを片っ端から読んでいたんです。
当時、次世代シークエンサーというものはありませんでした。
ですから、キャピラリーシークエンサーで読んでいたんでしょうね。
セレラ社の周りには、バイオベンチャーがたくさん集まっていたのですが、皆、「あいつは何をやっているんだ?」と訝しげに話していたのを覚えています。

さて、その後Venter博士は、Synthetic Genomicsという会社を、カリフォルニア州La Jolla(ラホヤと発音)に設立しました。
そしてまた偶然なんですが、先月、私の友人の紹介で、その会社を訪問する機会がありました。
(実は訪問するまでその会社がVenterさんの会社だとは知らされていませんでした。「面白い会社があるから紹介するよー」みたいな乗りで、そこの副社長とランチ&ディスカッションをすることができたのです)
で、その会社で何をしているかというと、Synthetic Genomicsという社名の通り、ゲノムを合成して、新しい生物を作っているのです!!

まさに究極の遺伝子組み換え生物!

生物が地球上に誕生したのが、35億年前、ストロマトライトだと言われています。
35億年の進化の中で、ゲノム情報は非常に複雑に、時に冗長性のある、無駄な情報を含んでしまいました。
それをきれいに、必要最低限の情報量にしてやれば、もっと効率的に、代謝・生産・合成をしてくれる生命体ができるのではないか?

先ずはゲノム情報が比較的単純な微生物です。

AGBT2015、Craig Venter博士の講演より
必要情報に絞れば、ゲノムはとてもスリムになります。
無駄を無くせば、例えば、バイオエタノールなどの生産をもっと効率的に高めることができます。
このようにして、人間の生産活動に有望なゲノムを作ることを、彼らは目指しているのです。

で、最初の話に戻るのですが、沈没船についていた泥に含まれていた微生物のゲノムを、なんで彼らは読んでいたのか。
それは、人類にとって有益な微生物を、真っ先に手にするため。
将来的にゲノムを改造して、より良い微生物を作り出すため
の、大きなプロジェクトの第一歩だったのではないでしょうか。

そう考えると、Venterさんの先見の明はすごい!


実は私が大学時代(カナダの某大学に留学していたときですが)、Venterさんの講演を聞いたことがあります。
そのときは正直、彼の話がとっぴすぎて、科学者というよりもSF作家の話を聞いているようでした。
でも今思えば、彼は10年先、20年先をも見据えて、ビジョンを語っていたのでしょうね。

今、Synthetic Genomics社では、様々な微生物、藻や植物、昆虫など、ゲノムをがんがん読んでいます。
それに貢献しているのがPacBioのシークエンサーです。
私も見てきましたが、すごいラボでした。
さすが、カリフォルニアの一等地に構える研究所です。
バイオインフォのインフラもしっかりしていました。
専用のデータベース、ソフトウェアも設計していました。
NCBIのゲノムブラウザよりも、はっきり言って使いやすいかも。

アメリカのゲノムビジネスはすごい
日本も頑張らなくては!

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