2015年10月1日木曜日

PacBio 新型シークエンサー Sequel System

皆さん、驚かれるかも知れませんが、PacBioの新型シークエンサーが発表されました。

私も全く知らなかった。
本当にサプライズ。
PacBio本社でも、知っているひとは限られていたそうです。

ついこの間まで、PacBioの誰もが「PacBioはあの大きな装置、RSIIを、これからも売っていく。小型シークエンサーは出ない」って明言していましたから。
 私もそれを信じて、あちこちで「新型装置は出ない」って言ってきたので、結果として嘘を言っていたことになり、申し訳ないです。

とは言っても、MiSeqくらいの大きさ・・・というわけではないようですね。まだでかい。
横に立っている女性、背が高いです。
装置の大きさは幅x奥行きx高さが、36.5 in x 34 in x 66 in(168 cmくらい)
重さは381kg
今までのRSに比べると確かに小型です。軽乗用車サイズから冷蔵庫サイズに、なった感じ。
デザインは・・・ ちょっと・・・ まあ、いろいろあると思いますがあえて言いません。

プレスリリースはこちら

では今までのRS IIとどう変わったのか?
SMRT Cellが大きくなりました。大きさにして約4倍、ZMWの数は約100万
ここから出力されるリードの本数は、今までと比べておよそ6~7倍

リードの長さやMovie時間はRSIIと変わらない予定です。
1セルあたりの出力塩基数は~5Gb(うまくいけば10Gbも?)
最大16セルまで1ランで使用可能

SMRT Cellが大きくなったということで、今までは8セルが1本のStripにまとまっていましたが、Sequel Systemは4セルで1本です。
これを最大4本、装置にセットすることができます。(合計最大16セル)

Sequel Systemでできることは、
デノボアセンブリ、Iso-Seq、ロングアンプリコン、Methylation解析、というふうにRSIIと同じです。
サンプル調製も、一部はRSIIと同じキットを使い、一部は特別のものを使う、というふうに分かれています。
窒素ガスはRSII同様、必要です。

この機械の、前面の黒いところは、スライドして下に降りるようになっています。
すると、中からロボットと試薬セットを置く台が現れます。
ここでユーザが、SMRT Cellをセットしたり、キットやチップを置いたりします。
スライドを閉めてから、上段右のタッチパネルで操作します。
Real Timeでシークエンスが始まり、データはこの装置の下のほうにあるサーバで、ベースコールされます。

ベースコールされたデータは、ユーザのサーバに転送されるか、USB3.0でユーザが抽出します。
データ解析はRSIIと同様、SMRT Analysis 3.0 を使います。
あ、SMRT Analysisは次に3.0になります。ちなみに3.0はRSIIのデータも解析できますのでご安心を。

Sequel Systemを使えば、うまくいけば、30xのヒトゲノム・90Gbを、1回のランで得ることも可能。
それも平均10kbの超ロングリードで!!



今年のASHG(アメリカ人類遺伝学会)の大きな目玉になることは間違いない!

そもそも、どうしてこんな製品が突然出てきたのでしょうか?

ご存知の方もいると思いますが、PacBioはRocheと共同で、Roche向けの診断用NGS装置を開発するという契約がありました。以前ここにも書きました。
この装置も、Roche次世代シークエンサーの開発の過程で作られたものだそうです。
極秘裏に開発されたのも仕方が無い。

こちらSequel Systemは、Research Onlyなので、Roche向け診断用NGSとは、別物です。
診断向けNGSについては、Rocheさんにお問い合わせ下さいね。


肝心のデータですが、実は、まだオープンにできるものはありません。
現在、本社でサンプル調製の最適化と共に、良いデータ出しをしているところだと思います。
乞うご期待!

価格は来週決まりますので、お問い合わせはトミーデジタルまでお気軽に!


しかし、当然ですが、気になるのは今後RSIIの運命はどうなるのか? ということですよね。
先ほどのプレスリリースによると、RSIIの試薬の開発・サポートは続くとのことです。
これは信じる。

それに、RSIIは販売してから歴史があるので、トラブルシュートの経験がある。
新しいSequel Systemよりは安定してデータを出してくれるでしょう。 
しばらくは共存していくと思います。 

来週アメリカに行くので、いろいろ突っ込んで聞いてきます。



あーあ、それにしても、あちこちで「新型機械は出ない!」って言ってきたなあ。 やばい。
サプライズとしては良いかも知れないけれど。
出るとわかっていたらもっと嬉しかったかも知れない。そう思う社員は、PacBio本社の中にも多いと思う。
まあ、この業界では良くある話ですけどねえ。

良いニュースとして、前向きに考えることにしました!

2015年9月23日水曜日

Flatwormは再生医療に役立つか?

この仕事をしていると、いろんな生物を研究しているひとと出会うんですね。
初めて知る生物の名前や、今まで誤解していた生物など、結構あるものです。
例えば、ナメクジウオ
名前から、魚なのかと思っていましたが、とんでもない。
頭索動物、という仲間で、脊索はあるけれど脊椎は無い。
つまり脊椎動物と無脊椎動物の分岐点に位置する動物というわけで、進化の研究に重要な生物だそうです。

ほかにもたくさんありますが、それはまた今度の機会に。
今日は、Flatworm(扁形動物)という生物の話です。
プラナリア、ヒラムシ、サナダムシの仲間というだけで、気持ち悪ぅー、と思ったあなた。
あなたはこの生物がどんなにすごいかを知れば、絶対考えを変えるでしょう。

切っても体が再生するんですよ!
ザリガニは足が再生しますがそんなものではない!


http://www.macgenome.org/animal.html より
今日紹介する論文はこちら

Wasik et al., (2015) Genome and transcriptome of the regenerationcompetent flatworm, Macrostomum lignano. PNAS

M. linganoという生物、こいつは切っても完全に再生するそうです。
細胞の自己再生、組織の再生の研究にはもってこいというわけ。
そこで、Cold Spring Harbor Laboratory のMicheal Schatz博士らのグループは、この生物のゲノムとトランスクリプトームを読んで、組織再生の謎に迫りました。

PacBioが活躍したのは、ゲノムアセンブリ。
M. linganoのゲノムはK-mer (23-mer) 解析から700Mbと想定。
全ゲノムの70%がリピートでトランスポゾン配列が多く、2n=8本の染色体はChromosomal Duplicationもあるとされ、当然ながらショートリードではまったくつながらない。

そこで、PacBioロングリードの登場!
ゲノム配列を10ug用意して10kbをターゲットにg-Tubeで切断、その後SMRT bellライブラリを作製し、6kb~15kbでサイズセレクションしたあと、P4C2またはP5C3でシークエンス。
試薬のバージョンからして、実験は昨年されたのでしょうね。

130x分のシークエンスデータを得た後、エラー補正を施し、実際アセンブルに用いたのは10kb以上の補正後リード21x分。
そうして、N50=64kbのContigを得た。64kbというのはこれまでの222bp(ショートリードでのアセンブリ)に比べると、大きな進歩。

次に彼らが行なったのは遺伝子アノテーションと、発現解析。
発現解析はIlluminaで行なっていますが、まあ、これはこれとして、リファレンスContigができたおかげですから。

山中ファクターとしても有名な、Oct4/Pou5f1、Nanog、Klf4、c-Myc、Sox2遺伝子は、組織再生の重要ファクターです。
この生物では、Sox2以外の遺伝子発現は見られなかったものの、哺乳類の幹細胞メインテナンスに必要な、Jak-Stat、Wnt、MAPKパスウェイは保存されていたそうです。

そのほかにも、組織が再生される過程を示すパスウェイや特定の遺伝子発現などが、哺乳類のそれと、似ているところ、似ていないところ、が示されました。
まだわからないことは多いけれど、なるほど、気持ち悪い生物も結構我々と共通するところあるんだなあ、と思いましたね。
気持ち悪い生物、と言ったら失礼か。

個人的には、できればIso-SeqをP6C4でもやって欲しい。
もうやっていたりして。



2015年9月19日土曜日

PacBioでHLAシークエンス

先日、水戸で「日本組織適合性学会大会」があり、行ってきました。
以前からPacBioでHLA遺伝子をシークエンスしている先生の発表があったのと、この業界についてはほとんど素人だったので、勉強もかねて。学会についてはこちら

この学会では、輸血・臓器・造血といった、移植全般の「組織適合性」に関して、大学研究者から医療関係者、日本赤十字、現場のティシュータイパー、といった方々が集まって最新の技術を発表したり、現場の問題点を提起したり、活発に議論が交わされていました。

企業からもタイピング受託会社や、タイピング装置やキットの輸入商社、メーカーなどが参加。
学会の規模は、そうですね、実感としては「ゲノム微生物学会」くらいの大きさかな。

さて、HLAについて、もし基礎的なバックグラウンドを知りたいかたは、先ほどの学会ホームページのここがとても詳しいです。
私もこのページで勉強しました。

ざっくり言うと、移植のときなどにドナーとレシピアントとの間で、適合するかどうか、は、HLAという遺伝子のSNPの型で決めるんです。
ひとつの遺伝子にSNPがいくつもあって、その組み合わせで、何千通りというハプロタイプができる。
HLAはA、B、C、DRB、DQB、DPBなどなどいくつかあり、タイピングに用いられる遺伝子はだいたい決まっています。

その遺伝子のSNP型を、ビーズ、PCR、またはシークエンスで判定するということ。

今、HLAタイピングの主流はビーズです。
その理由は、①簡単、②低コスト、③世界中でバリデートされている
から。
ビーズで検出すると、同じ遺伝子上でも離れた場所にある2つのSNPのハプロタイプはわからない。
これをAmbiguity問題、といいます。
シークエンス法に比べると、精度は落ちる。

GenDX社のウェブサイトから
シークエンス法の場合、先ず一旦遺伝子の全長、または変異の高い場所をPCR増幅します。
プライマーはもちろん保存された領域に設定される。
このプライマーでちゃんと増えたら、次に断片化する。
断片化した後、シークエンスする場所を濃縮するか、あるいはそのままシークエンスする。

あれ? 何で断片化するの?
と思ったかた、あなたの頭はPacBio向きです。

PCRで増幅したHLA遺伝子は、だいたい4kbから10kbかそれより少し長いくらい。
PacBioならそのまま読めますよね。
そうです。読めます。
断片化するのは、ショートリードのときだけ。

NGSとHLAタイピングをもっと詳しく知りたい!という方はこのレビューがおすすめ

Hosomichi et al., (2015) The impact of next-generation sequencing technologies on HLA research. J of Human Genetics.

HLAタイピングの方法、ソフトウェアの種類、長所短所などがまとめられています。

シークエンスされたデータは、IMGT/HLAデータベースに登録されている各HLA遺伝子の配列にマッピングされます。マッピングのアルゴリズムは、ツールごとにいろいろあるようです。
有償ソフトウェアなどは各社独自のマッピング方法を開発して、精度を上げています。
そして、アレルごとにコンセンサスを出して、アレルの型を決める
Hosomichi et al. (2015)

PacBioの場合も、長いリードで遺伝子全体を読みますが、そのあとデノボでクラスタリングをつくり、アレルごとにコンセンサス配列を作ります。
先にデータベースにマッピングするのではなく、アレルごとの遺伝子全体のコンセンサス配列をつくってから、データベースを参照して型を判定するのです。
(正確には、遺伝子全体を読むのはClass Iと呼ばれる比較的短い、とはいっても5kbくらい、の遺伝子。Class IIと呼ばれる遺伝子群は、10kb以上あるが、それくらい長いとPCRすること自体が難しい。そこで遺伝子の一部を増幅することが多い)


このように、NGS、特にPacBioで読めば、Ambiguity無しに、正確なHLA型を判定することが可能です。
でも、タイピングにかかるコストは若干高め。
ライブラリ作製にかかる手間は、ビーズ法に比べれば、かかる。これは認めます。

では、どういう場合に、PacBioがHLAタイピングに使用されているのか?

アメリカには、Histogenetics社という、HLAタイピングの専門会社があります。
この会社はMiSeqを47台、PacBioを1台保有し(もちろんキャピラリーはたっくさん保有)、Sequence Based Typing (SBT)をガンガンやっています。
顧客は主にNMDP(National Marrow Donor Program)のようなバンク。
MiSeqを使ったタイピングでもキャピラリーを使ったタイピングでも、データベースに合わなかったり新規の可能性があるような場合、PacBioの登場。
昨年はまだ慣れていなかったテクニシャンも、もうPacBioかんたーん!って言っているそうです(Histogenetics社のCEO曰く)。
タイピングの方法も、自分たちで作ったデータベースに独自のプログラムを使って、行なっているとのこと。
ここはPacBioでのHLAシークエンスに一番ノウハウがあると思いますが、いかんせん、企業なので情報はあまり出てこない。

では、イギリスのAnthony Nolanはどうかな?ここは公共機関。論文もあります。
Mayor et al., (2015) HLA Typing for the Next Generation. PLOS One.

新しいアレルも発見されています
Hayward et al., (2015) The novel HLA-B*44 allele, HLA-B*44:220, identified by Single Molecule Real-Time DNA sequencing in a British Caucasoid male. Tissue Antigens.

人類遺伝学会などでも関連する発表がありそうな予感。
PacBioの可能性が試されるときです!



2015年8月17日月曜日

ところで最近cDNAシークエンスはどうなった

アイソフォームシークエンス、通称 Iso-Seq
これは以前もこのブログで紹介しました
ところで、良くある質問が、どれくらい読んだら十分か、というもの。
転写量が低いアイソフォームも高いものも、まんべんなく検出するには、何セル読んだら良いのか?

簡単なようで難しい問題です。

これは逆に出力から考えた方が良さそうです。

1つのSMRT Cellから出力されるリード数は、およそ6万本。
1本1本が独立のアイソフォーム配列由来です。
ReadsOf Insert、別名CCSですが、これがちゃんと全長cDNAをカバーしているかどうかが大事です。
ここで全長というのは、逆転写酵素で転写産物を復元した後、PCR増幅するときのPCRプライマー配列が、シークエンスされた後のReadsOf Insertで、5’側と3’側にちゃんとあることを言います。

つまり、長いアイソフォームほど、全長読まれる確率は低くなる
設定するReads Of Insetのパス数は、アイソフォーム配列の精度に影響する
では、出力されるReadsOfInsertのうち、どれくらいが全長読まれたものなのか?

先月のユーザーミーティングでは、いつくかIso-Seqの発表もありました。
その中のひとつでは、3パターンでサイズセレクションをしていて、そのうち完全長cDNAだった割合は、

  • 1-2kb:50%(1セル6万本出力と仮定すると、3万本)
  • 2-3kb:30%(同18,000本)
  • 3kb-:20%(同12,000本)

というふうに、転写産物の長さが長くなるほど、完全長アイソフォームの数は少なくなりました。
当然といえば当然。

他の発表でも、サイズセレクションのデータは無いけれど、8セル使ったIso-Seqの実験で完全長は21万本。
64セル読んだときは完全長cDNAは100万本(全体のリード数は470万本)だったそうです。

このような数字が、自分の目的に合うかどうか?
で、計算してはいかがでしょうか。

しかし、完全長cDNAといっても、もしかすると5’側の配列が欠けていることがあるかもしれません。
これは逆転写酵素Takara-Clontech SMARTerが、最初に転写産物の5’キャッピングをしないことが原因です。
5’側まで行かなくてもcDNAが完成してしまうため、ある程度、完全長では無いcDNAができてしまいます。
その後PCR増幅するときに使う5’と3’のプライマー配列が、シークエンスで読めていれば、Iso-Seqでは完全長cDNAと言います。
ここ、気をつけて下さい。


もうひとつ、その昔、Iso-Seqが開発途中だった3年前の話です。
転写ノーマライゼーションというものがありました。
これは、転写量が高いアイソフォームばかり読めてしまって、転写が低い産物がなかなか読めないことを防ぐために考えられたプロトコルです。

カムチャッカカニから抽出したDuplex-specific nucleaseDSN)を使用した方法で、原理としては以下のようなもの。

  1. 一度cDNAをDenatureしたあと、Renatureする→ Abundantな転写産物ほど二本鎖に戻りやすいはず
  2. 二本鎖DNAを特異的にHydrolyzeする酵素(DSN)で処理する→ Abundantな転写産物ほど優先的に分解される
  3. 転写レベルが低かったcDNAが分解されずに残る
    → これでライブラリを作ることで、レアなcDNAも少ないセル数でシークエンスすることができるし、高発現だったcDNAは、2のところで分解されてライブラリにならないはず


しかーし、結局公式プロトコールにはならなかった。理由は以下の通り
  • cDNAを一旦Denatureした後、二本鎖にする段階で、長いcDNAほど、同じ配列(ドメイン配列など)を有する他のアイソフォームと非特異的に二本鎖を形成する確率が高くなる
  • 長いcDNAは、それが例えレアな転写産物であっても、非特異的Renatureを作りやすいことで、結果DSN分解(hydrolysis)されてしまう
  • ノーマライゼーションステップには、追加でPCR増幅が必要なため、さらに増幅バイアスが生じる(Iso-Seqは2回、PCR増幅しますので、ノーマライズするときは合計3回のPCRが必要になる)
これらを考えて、海外のあるユーザは、2kb未満の比較的短いcDNAに対してのみ、ノーマライズ処理をしているそうです。
短ければ非特異的Renatureはある程度防げるだろう、という考えです(増幅バイアスはかかりますが)。

とは言うものの、PacBioとして公式に勧めているプロトコルではありません。自己責任です。
酵素自体はEvrogen社で販売されているようですね。

じゃあ今はどうなんだ? と聞かれそうですが、今もノーマライゼーションは公式プロトコルにはありません。
転写産物の高いものだけを、読む前に減らす方法は難しいのかな。


2015年8月8日土曜日

DNANexus

「猛暑日」
日中の最高気温が35度を超えるとこう呼ばれますが、東京は今日8月7日で、1週間連続の猛暑日だそうです。
5年後の東京オリンピックは8月6日から。こんな暑い中、屋外競技は厳しいだろうなあ。
何かと話題の新国立競技場も、東京ドームみたいに、完全エアコン&屋根付きにすれば良いけど。
そうなったら建設費はいくらになるのかな?
ちなみに東京ドームができたのは1988年。バブルの真っ只中、建設費は350億円だったそうな(ここにまとめあり

さて、私がいまバイオインフォ関連で気になっているのは、前回も紹介したDNANexusという会社。
ここはGoogle Ventureも出資しているアメリカの会社で、クラウドでの解析パイプラインがメインです。
この会社は、FalconによるPacBioデータのアセンブリパイプラインを提供しています。
先月のPacBioユーザーグループミーティングでも発表していました。
Falcon、ってインストールがとても複雑なんです。
環境依存が多くて、なかなか素人には手が出ない。
そもそもヒトゲノムレベルのゲノムサイズをFalconアセンブリするには、それなりのクラスターサーバーが必要。
でもDNANexusは、アマゾンクラウドを使っているので、理論的には世界最大級のスパコンを使うことができる、というわけ。

Falconアセンブリは、HGAPのようにエラー補正ステップが最初にあります。
このステップが一番計算量を消費する。

DNANexus社のスライドより
上記には、HGAPの最後のステップであるQuiverは含まれていません。
Quiverもそこそこ時間がかかります。

ユーザは、アセンブルに必要なPacBioの生データ(bax.h5とmetadata.xml)を、DNANexus社のツールでアップロードします。
あとは、こんなパイプラインをポチっと。

出力データは

  • エラー補正後の生リード(Pre-Assemblyリード)
  • Primary AssemblyのFASTAファイル
  • Alternative Contig(バブル)
  • 各ステージでの中間ファイル 
結果がまずければ、例えばステージ2から再開できるように、中間ファイルを保存しているそうです。

その後、Quiverをかける。
Quiverというのは、HGAPでも使っていますが、エラー補正をする前の生サブリードを、アセンブリ後のContig配列にマップして、生サブリードの持っているクオリティデータを使いながら、Contig配列を補正していくプログラムです。

さて、ここまではアセンブリの話。
もちろん、構造変異解析のパイプラインもあります。

皆さん、Parliamentというのをご存知でしょうか?

Parliamentとは、構造変異解析のツールで、BreakdancerやPBHoneyなどに広く使われているそうです。

Illuminaデータ、PacBioデータ、Irys、Nexteraなど様々なデータに対応します。
例えばイルミナデータとPacBioデータがある場合、数ある変異検出ツール(DellyやCNVator)で変異があっただろうとされる場所をまとめて、そこのみをローカルアセンブリして構造変異の場所を出力する。
「数ある変異検出ツール」というのを、DNANexus解析パイプラインでは、Parliamentひとつでまとめてしまって、簡潔なものにしています。
DNANexusのスライドより

今のところ、イルミナ用の構造検出ツールは数が多く、PacBio用にはPBHoneyのみしか無い。
なので、Parliamentを最大限生かすには、イルミナデータがあったほうが良いとのことです。
しかし今後は、PacBio用の構造変異検出ツールも増えてくるだろうから、期待したいですね。

---------------------ここまではDNANexusの話------------------------

さて、せっかく構造変異の話をしたので、ついでに宣伝です。

前にもお知らせしましたが、SNVとかIndelとかを見つけた後に、それがどのくらい意味があるものなのか、を調べるのは大変だけれども重要なこと。
データベースに照らし合わせてフィルタリングするのが普通でしょうが、このIngenuity Variant Analysisが追加で持っているデータベースはちょっと違う。
何百人ものPhDホルダーが、10年以上かけて文献から抽出した、パスウェイ・ネットワーク情報です。
これ自体でも価値のあるデータベースでしょうね。

このIngenuity Variant Analysisは、「変異情報から病態・疾患情報や機能・パスウェイとの関連性について、【短時間で、簡単に、信頼性の高い解析結果】を出力するツールです。



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Ingenuity Variant Analysisについて詳しくはこちら
応募してみたいが、できるかどうかわからない方、IVAの概要説明をご希望の方は、下記までお問い合わせください!
トミーデジタルバイオロジー(株)
info_ap(AT)digital-biology.co.jp  (AT)の部分を@にして下さいね。












2015年7月18日土曜日

PacBio Asia User Group Meeting 速報


今年も、PacBioアジアユーザーグループミーティングが行なわれました。
場所は去年と同じ、シンガポールのGrand Copthorne Waterfront ホテル。
ここはANAのCAさん御用達のホテルなのです。
ANAの制服のままのCAさんとホテルのエレベーターで一緒になるとドキッとしますね。
いろんな意味で(笑)。

さて話をユーザーミーティングに戻すと、今回は第3回、参加人数は昨年の2倍近い140名!
規模が大きくなった分、以前のようなアットホームさは無くなりましたが、これも成長しているということでしょうか。

今年、存在感を増していたのが韓国チーム。
韓国からは、受託会社のマクロジェン、DNALink、バイオンフォ受託会社のChunLab、の3社が発表。
マクロジェン社は皆さんご存知、韓国人AK1ゲノムをリファレンスレベルクオリティで完成させることを目標に、HiSeq X10システム、RS II2台、をフル稼働させてシークエンスしている会社です。
AGBTのときの発表よりもデータを増やしていました。

DNALink社は、アジアで最初のPacBioを導入した会社です。ここはマクロジェンよりPacBio経験が長いので、実績は多い。
面白かったのが朝鮮半島の東西南の海岸で採取したサンプルでメタゲノム解析を行い、Pacならではのメタメチレーション解析を試みた、という話。
バクテリアのメチレーションのパターンが地域で違う、ということで、他の機械ではできない解析だなと思いました。結論をどうもっていくのか、論文が見ものです。

マクロジェンもDNALinkも、ライバル同士がお互い発表し合い、それぞれ認め合うような、そんな雰囲気でした。

もう1社のChunLabは、今月初めのNGS現場の会でも参加していましたね。
ChunLabは、バクテリアの16S配列をPacBioで完全長読んで、それをもとに種のレベルの分類を可能にする解析パイプラインを提供しています。
ここで、発表者のChun社長は、「16Sを完全長で読んだ場合、一番大事なことはPCRキメラを取り除くこと」と言っていました。
実際にPCRで全長16Sを増幅すると、かなり(多いときは20%も!?)キメラ配列が作られるらしい。
そのキメラ配列を取り除くために、既知の正しい16S配列のデータベースを整備し、その配列と比較することで確からしい配列を判別し、キメラ配列を取り除いているそうです。
確からしい配列のなかには新規の16Sがあるので、それは新たにデータベースに追加される。
そうしてどんどんデータベースが更新されて、キメラ配列除去の精度も上がる。
興味のある方はこちら
でも、アジアには競合がとても多いらしいです。

さて、そのほかにもオランダのバイオテック、Key Gene社は、4倍体の綿など植物ゲノムをPacBioでデノボアセンブリ。
マレーシア大学では天然ゴムを分解するActinomycetes(GCリッチ)をゲノムアセンブリ。
Acceligen社はLivestock(何て訳すのかな)ゲノムの話しの流れで、ヤギのゲノムアセンブリの話。
Arizona Genome Instituteからは、複数BACを一度にシークエンスした話。10個のクローンを1つのSMRT Cellでシークエンスして、10個のContigに。
使ったのはHGAP3のみでインデックス使用していないって!?
その10個がどれくらい違う配列なのか、それにもよるのでしょうが、もう少し聞きたいところ。
早く論文になって欲しい。

今回、大型ゲノムのアセンブリの発表で、BioNanoとのハイブリッドアセンブリがいくつかありました。
確実に来年は、もっと増えてスタンダードになっていることでしょう。
BioNanoは前にも書きましたが、ゲノムマッピングの情報を出してくれます。(配列をマップするの意味では無いです。地図の意味です)
そのマップ情報と、PacBioの配列情報を組み合わせれば、アセンブリにはかなり強い!
でも、やっぱりLife Is Not So Easy!!
BioNanoとPacBioのContigが矛盾することもあるそうで、そういうところは何が起こっているのか、詳しく見ていく必要があるでしょう。


お待たせしました。我が日本からは、内藤さんが登場!
140名が釘付け
Wild Vigna !  
いつものトークでアズキたちのすごさが十分伝わりました。
内藤さん、ありがとう!
最後のSexy、うけてました!

終わってからPacBio Asiaの人から、「日本人研究者って、面白くてエネルギッシュな人が、実は多い?」と聞かれました。ちなみに去年は、阪大微研の中村さんでした。
「若い研究者はね」


皆さん、お疲れ様でしたー
また来年、シンガポールでお会いしましょう!



ちなみに、ツイッターでは
#ugmAsia でミーティングの模様が若干ですが、ツイートされていました。




2015年7月8日水曜日

NGS現場の会で思ったことと、ヒトゲノムのアップデート

梅雨ですねえ。毎日雨が降っています。
そんな中、先週つくばで「NGS現場の会・第4回大会」が行なわれました。
私たちは、初日にスポンサーセッション、2日め3日めは展示会場とポスターで、楽しみながら仕事してました。

いつもプレゼンを作るとき、観客が100人、200人の場合、どのレベルに合わせて話すかで迷います。
集客をたくさん取るにはできるだけインパクトのあるタイトルと、わかりやすい内容の要旨、が必須。
現場の会で集まる皆さんは、NGSのプロから初心者、研究対象もバラエティに富んでいる。
そこで難しいのは、まず話す内容のレベルです。

PacBioを知らないひとにHGAPとかSubreadとかいきなり言っても通じるわけが無く、眠ってしまうのがオチ。
反対に、あまり初歩的な内容を話すと、今度はNGSのプロでPacBioに精通しているひとが退屈してしまう。
だからといって平均的なレベルの内容では、面白みが無い。

そう、だから、企業がやるプレゼンは大抵つまらないのです!!
みなさん、企業プレゼンで退屈した経験は多いでしょう?
そうならないために、各社、その道の有名研究者を講師に招いて、喋ってもらったりする。

企業としても研究者に喋ってもらった方が楽だし、リップサービスで自社の製品を褒めてもらえれば説得力が出る。
私も、日本進化学会とかゲノム微生物学会とかのランチョンセミナーでは、大学の研究者にお話ししてもらいましたが、「現場の会」「・・・若手の会」では私自身で喋るようにしています。

自分にとっても良い経験になります。
普段は特定のお客さん相手、または同じような研究をしている方相手の「真面目な」プレゼンが多いですが、現場の会、若手の会は、「ここまでなら許されるかな?」的に冒険できる。

ストーリーを作って、観客を飽きさせない。たまに外すこともありますが。

そんなプレゼンの中で、今回は

  • はじめに(これまでの3年を振り返り)
  • PacBioシークエンスとは(初心者向けに簡単におさらい)
  • ヒトゲノムへ与えた衝撃(最近のヒトゲノムシークエンス)
  • ターゲットキャプチャーシークエンス(NimbleGenプローブを使ったキャプチャーシークエンス)
  • 2015年からこの先の計画(さらなるロングリードを実現するためのアップデート)

の流れで話しました。

特に、発表の前日、PacBioを使ったヒトゲノムデノボアセンブリの論文がPublishされました。
これは話題に入れないとダメだ、と思い、深夜1時過ぎまでスライドを更新していました。

その論文がこれ
あの、Mount Sinaiのチームの仕事です。
2014年、アキバでPacBio現場の会、をやりましたがその時の演者の1人、Bobbyさんの講演を覚えている方は、「ああ、あの仕事がついに!」と思ったのではないでしょうか。

彼らは、今までのショートリードとPacBioリードというハイブリッドアセンブリの概念を覆す、新しいハイブリッドアセンブリを行なっていました。
彼らのは、PacBioロングリードと、BioNanoゲノムマップによるハイブリッドアセンブリ。

BioNanoのテクノロジーは今日はあまり詳しくは書きませんが、ゲノム上に特定の短い配列があるとして、ゲノム抽出後にそれを酵素が特異的に認識、蛍光を付け、そのDNAフラグメントを機械にかけて蛍光を検出します。
そうすると、ゲノム上のその特定塩基配列があった場所が蛍光でわかります。
ゲノム配列全体がわかるのではなく、特定認識配列があった場所の情報(ゲノムマップ)がわかるというわけ。

この論文を読むときは是非、Supplement 1も手元にあったほうが手順がわかりやすいです。


彼らはHapMapのDiploidヒトゲノム・NA12878を、P5-C3で合計46x読んだ。
そしてBioNanoでは80xのゲノムマップを読んだ(平均278kb)
PacBioデータはエラー補正後、Celera Assembly またはFalcon Assemblyした。
BioNanoのマップデータは一度アセンブリし、Scaffoldを作る。
そのScaffoldにCelera Assemblyで作ったContigをアラインし、Scaffoldにシークエンスデータを足す。Scaffold v1ができる。
Scaffold v1に、Falcon Assemblyで作ったContigをアラインし、Scaffold v2を作る。

こんな感じでScaffoldをきれいにしていって、ヒトゲノムを構築していった。

最終的には、Scaffoldが202本、NG50 はなんと28.8Mb!!
これは驚き、というか衝撃!

もちろんここから、構造変異を見つけていくわけです。

彼らの目標は、リファレンス配列並の高精度のゲノム配列を、いかに簡単に今あるテクノロジーでつくること。
BioNanoは技術的にはPacBioと全く異なりますが、うまく両方使えば他のどのテクノロジーでもできないようなことを可能にする、そんな論文です。

もちろん、このようなアセンブリは、BioNanoだけ持っていても不可能です。
BioNanoとショートリードでも無理でしょう。
PacBioが絶対に必要です。